『イントゥ・ザ・ワイルド』

裕福な家庭に生まれエリート大学を卒業した青年が、家族も地位もお金も全てを捨て、アラスカへ放浪の旅へでたまま消息を絶つまでの軌跡を描いたドラマ。実在の青年の話しだけあって、まるでドキュメンタリーを見ているような作品でした。アカデミー賞候補とも言われ、一部では非常に評価の高い作品のようですが。う〜ん・・・万人向けでは決してないかも。非常に見る人を選ぶ作品だと思います。およそ2時間半もの間、物悲しい雰囲気のままひたすら淡々と青年の無謀ともいえる放浪の様が描かれているから。こういうのが苦手な人にとってはひたすら苦痛な時間に感じるか、もしくは眠気との戦いかもしれません。
で、私はと言うと、最初は自殺行為とも言うべき彼の行動に全く共感できませんでした。人との関わりを絶ち、家族を捨て、自分だけならまだしも結果的に彼と関わった多くの人の心に悲しみを与えることに、何の価値があったのだろうかと。あまりにも極端な彼の思考はどこか宗教じみた危うさも感じ、最初は淡々とした描写と相まって見続けるのに結構な忍耐が必要でした。
でも頑張って見ていると、なぜか次第に引き込まれてしまったんです。人との関わりから逃げているようで、実はとても人懐っこい主人公。本当は誰よりも人の温もりを求めていたのかもしれない。でも、それを自分で認めたくなかったのか、それとも気付いていなかっただけなのか。彼が目指すは雪に覆われたアラスカの大地。まるで何かに挑んでいるかのように生命力に溢れ、一人ぼっちなサバイバル生活を楽しんでいた主人公。でもそれは、彼が命の尊さをわかっていなかったから。いつでも元の地に戻れると思っていたから。きっと、自分の知力と生命力を過信するあまり、自然の力を甘く見ていたのでしょうね。雪が解けて、平原が激流へと姿を変えて帰路を絶たれたと知った時、初めて死の恐怖が彼を捕らえるわけです。その途端、今まで輝いて見えたアラスカの大地が、真っ暗な孤独の地へと一気に様変わりしてしまう。その瞬間の例えようもない恐怖が手に取るように伝わってきました。人は一度平常心を見失ってしまうと、焦りが致命的なミスを誘い、やがて負の連鎖がまわり始める。そんな例えようもない孤独と恐怖の中で、彼はようやく家族のありがたみを痛感し、自分の心が人の温もりを求めていたことに気付くわけです。でも時は既に遅し。取り返しの付かない事をしたと悟った時にはもう、ただ空を眺めて最後の時を待つことしか出来なかった。
や〜、正直、キツイ映画でした。彼の人生に共感こそ出来ないけどその心情は十分理解できたし、かなり引き込まれたのは確かです。でも、あまりにも報われない。彼自身の後悔と無念、残された家族や友人の悲しみがずっしりと胸にのしかかり、やり場のない思いで一杯でした。体裁ばかりを気にしたエリートな父親(ウィリアム・ハート)が、最後道端で両足を投げ出して泣き出すシーンはたまらなかったです。もう帰りの足取りが重いこと重いこと。仕事帰りに見るにはヘビーな1本でした。
評価 ★★★☆☆