『ジャージの二人』

最近人気急上昇の堺雅人がお目当て・・・ではなく、中村義洋監督最新作ってことで鑑賞。元はインディペンデント系の監督ですが、伊坂幸太郎原作『アヒルと鴨のコインロッカー』の高評価で一気に知名度を上げ、『チーム・バチスタの栄光』で全国区へと飛躍。このままメジャー街道まっしぐらかと思いきや、意外なことに次に手掛けたのが原点回帰とも言うべき本作、『ジャージの二人』でした。原作もマイナー、役者も数名。折りしも「篤姫」での急激な堺雅人人気でそれなりに注目は浴びたものの、はっきり言ってこれと言った目玉はなく、広く客を呼び込むにはあまりにも地味な作品。でも、それがむしろらしいというか、監督の身の丈にあっているような気がして、ニンマリとしてしまった。あ、誤解のないように言っておくと、決して中村監督がメジャー作品を撮る器量がないと言っているわけではありません。ただ、監督の独特の感性と手腕を存分に生かすには、色んな制約のあるメジャー作品よりも、単館系の方が向いているという意味です。
実際、本作は実に伸び伸びとした空気が溢れていました。本当はこういうのが撮りたいんだよって、今にも監督の声が聞こえそうな感じ。と思ったら、試写後のトークショーで監督自らそう仰ってましたね。この作品の現場が一番楽しかったと。やはり『アヒルと鴨』は原作人気へのプレッシャー、『バチスタ』は初メジャー作品としての諸々の制約とプレッシャーで、楽しむどころではなかったらしいですから。
とにかく、堺さん扮する息子と鮎川誠さん扮する父親の、噛み合ってるんだか噛み合ってないんだかわからない、絶妙な間合いで繰り広げられる浮世離れした会話で全編進みます。何の事件も起こらず、時を刻む針の音が聞こえそうなくらい単調なテンポで、淡々と。それでいて、その不思議な2人の間合いや意味のない会話が、クスリと笑いを生み出すこの空気感は、まさに『アヒルと鴨』での河崎(瑛太)と椎名(浜田岳)に通じるものがあります。ただ、ある一瞬を境にそんな空気が一変し、驚きとともに切ない感情が胸に押し寄せてきた『アヒルと鴨』とは違い、この『ジャージの二人』は、どこまでも淡々としたまま。結局、何も起こりませんでした(苦笑)。きっと何か起こるに違いないと最後まで期待し続けた私には、かなり拍子抜け。のどかな嬬恋のロケーションと相まって、この淡々と進むユルユルな感じがひたすら眠気を誘い、瞼を持ち上げ続けるのにかなりの努力が必要でした。たぶん、客を選ぶ作品でしょうね、これは。
堺さんと鮎川さんの掛け合いは面白かったし、あの独特な空気感も決して嫌いじゃないけど、何も受け取るものがなかったという事で、今回は辛め評価となりました。次回作は、再び伊坂幸太郎原作『フィッシュストーリー』。これは、期待してもいい・・・ですよね?

評価 ★★☆☆☆