『Sweet Rain 死神の精度』

こちらも随分前に見た作品。そろそろDVDが発売される頃なので、ひとまずレビューを書いておきます。
伊坂幸太郎作「死神の精度」の映画化。決して悪くはない。悪くはないんだけど、あまりにも淡々と描きすぎたせいか、映画としてこれといった見せ場のないのっぺりとした作品に仕上がってしまったのが惜しまれます。伊坂独特の浮世離れした世界観を何とか丁寧に映像化しようという努力の跡も見られたし、オムニバス形式の原作を切り取って2時間の枠に収める工夫もしていただけに、演出次第でもうちょっと面白く作れただろうになぁと。観客をグイグイ引き付ける何かが足りない気がしました。そう考えると、原作以上の余韻を与えてくれた『アヒルと鴨のコインロッカー』は、お見事でしたね。
でも、雰囲気っていうのかな、映画全体が醸し出す温かな色合いが結構好きでした。人間の感覚からちょっとズレたお茶目な死神がとても愛しくて、お久しぶりな金城武の魅力がたっぷり。彼の持つあの多国籍な感じや、たどたどしい日本語がまた、死神にピッタリなんですよ。小西真奈美が思いのほか雰囲気のある澄んだ歌声だったのもビックリでした。こうやって実際に歌声を耳にできることで、物語に説得力が生まれる点が、映画の最大の強みですね。*1。『アヒルと鴨のコインロッカー』での神様の声=ボブ・ディランしかり。こればっかりは、小説も敵いませんね。
この作品は、ミステリーと思って見ちゃだめなんですよ。ファンタジーと思って見ないと。人の死が題材なのに、冷たさよりもむしろ人の優しさ、温かさを感じて、ゆったりとした清々しい気持ちになれるラスト。とても後味のいい作品です。
評価 ★★★☆☆

*1:逆にイメージと違った場合、リスクも大きいけど