『チーム・バチスタの栄光』

映像化は不可能とされていた、あの伊坂幸太郎原作ミステリー『アヒルと鴨のコインロッカー』を見事に映画化し、将来性のある新人監督に与えられる「新藤兼人賞・金賞」を受賞した中村義洋監督。待望の次回作は、ベストセラー小説『チーム・バチスタの栄光』の映画化。監督にとっては初のビッグバジェット作品となりますが、『アヒルと鴨』で見事に観客を欺き、素晴らしい感動を与えてくれただけに、自然と期待は高まります。が、やはりこれまでのローバジェット作品とは勝手が違ったのでしょうか。監督ならではの思い切りのいい伸び伸びとした味わい深い演出は陰を潜め、思いの他平々凡々とした作品に仕上がっていました。

個人的に原作は未読なので、それなりに結末を知るという最低限の欲求は満たされました。故に全然つまらなかったわけではないんですが。何だろう。あまりにも普通過ぎたというか。前半のテンポが悪すぎて阿部寛が出てくるまでが長くて退屈。特に竹内結子がいつでもどの作品でも同じ演技なもんで新鮮味がない上に、役作りでいつも以上にまったりとした話し方なので余計に間延びして感じました。阿部寛が登場してようやくテンポが出てきたものの、ミステリーには欠かせない謎解きのドキドキ感や、あっと驚くトリックは一切なし。ただ淡々と出来事だけが順を追って進み、散々引っ張ったわりに犯人の動機や背景が弱すぎるから、真相が明らかになっても「ふ〜ん・・・」って感じで。これで人間ドラマが見ごたえあればよかったのですが、こちらもキャラの掘り下げが浅くて心を動かされるまでには至らず。また、この映画の肝は犯人探しをする過程での、田口と白鳥のやり取りだと思うのですが、そこら辺もイマイチ面白みに欠けており、何とも中途半端な印象が残るばかり。この映画、原作を読んだ方はどう感じたのでしょうか。

それにしても中村監督。あの『アヒルと鴨』で巧みに観客を欺いたのみならず見事なまでに切なさを描き出し、結末を知っている者でも十二分に楽しめる上質な感動作へと仕上げていた手腕はどこへ行ってしまったんだろう。特に、『アヒルと鴨』ではその見事なキャスティングが功を奏し、作品を一味も二味も引き立てていたのに対し、『バチスタ』は豪華な俳優陣が全然生かされていなくて。唯一生き生きとしていた阿部寛*1以外、誰一人として印象に残らず終いでした。結果的に阿部寛の強烈な言動ばかりが印象に残ってしまい、主人公の田口(竹内結子)の存在はおろか、本来のメッセージ性といったものまでをかき消してしまっては、作品として成功したとは言えないでしょう。ま、そもそも、中村監督自身が、本来男性だった主人公を竹内結子でやると聞かされて戸惑ったとのことでしたからね。これまでとは違い、キャスティングありきの演出をしなければならず、苦労の跡が伺えます。

また『アヒルと鴨』はオリジナルシーンの挿入によって原作以上の切なさを描く事に成功していたのに対し、『バチスタ』は明らかに竹内結子萌え的なソフトボールシーンが唐突に挿入され、違和感ばかりが残ります。何だか、キャストもセットもその他も、何もかもが豪華になる代わりにいろんな横槍や制約も増え、思うような演出が出来ないまま無難にまとめることに終始した結果、中村監督本来の良さが封印されてしまっていたという感じ。本当に残念です。やっぱり、どんなに才能のある監督でも、得意とするフィールドがあるもんですね。初日舞台挨拶で監督は続編へ意欲を見せたそうですが、正直私としてはそれはもういいかなと。それよりもまた『アヒルと鴨』のような、ローバジェットながらも素晴らしい作品作りを期待したいです。

それにしてもこの映画、予告編の出来がやたらめったらいいんですよね。豪華キャストを最大限に活用し、グッと興味を惹き付けるミステリアスな煽り文句で。それだけに、ガッカリ感も大きかったわけですが(汗)。もっとこう、本編も予告見たいにガツンと来るものがあればよかったんだけど・・・。

評価 ★★☆☆☆

*1:こういうエキセントリックな役が良く似合う