『サウスバウンド』

破天荒な元過激派の父とその家族模様を、息子目線で描いた爽快なヒューマンドラマ。というふれ込みだったのですが、人物の描き方が中途半端であるが故にキャラの面白味が全く生かされず、破天荒な夫婦に振り回される、気の毒な子供たちの物語にしか見えなかった。何のために西表島に行ったんだか、何のためにあんな犠牲を払ってまで抵抗したんだかがもう、さっぱりわからないままに物語が進み、挙句があのラストですから。それでいいのか子供たちは?それのどこか家族愛なんだ?と、モヤモヤが残るばかり。まだ父親に明確な信念や目的があるんだということがしっかり描かれていれば、それなりに理解出来たかもしれないけど。そもそも過激派なんて今の時代にはピンとこないわけで、ただの偏屈親父が無駄に抵抗して自らの首を絞てしまったようにしか見えず、それこそ「ナンセンス」と叫びたくなるような映画でした。
役者は豪傑で粗野な父親に豊川悦司ジャンヌダルクの異名を持つ母に天海祐希と、設定も雰囲気もピッタリ。でも、脚本が破綻しているためか、個々の魅力も半減していた感あり。長女役の北川景子は『間宮兄弟』に続いての森田作品出演。相変らず舌っ足らずで天然なキャラは可愛いけど、これと言ったインパクトはなし。その点、田舎のお人好しお巡りさんを演じた松山ケンイチが、とてもいい空気を醸し出していた。「セクシーボイス・アンド・ロボ」ではイマイチだった彼だけど、こういう無理せず自然体でいられる役柄だと断然魅力を発する人だなと。脇ながらなかなかの好演でした。
だた、それ以外に役者と言える人が皆無だったのがキツかった。手垢の付いていない子役や地元民を使って素朴さを出したかったのはわかる。でも、それなら素朴な演技の出来る役者を選ぶべきであって、単純に素人を使うだけでは高いお金を払って見に来るお客さんに失礼でしょう。せめて十分な発声法練習と演技指導ぐらいはしておいて欲しかったなと思うわけです。ということで、結果、私はこの監督が合わないらしい、という事に行き着きました。そういえば面白いと評判の『間宮兄弟』もユルすぎてイマイチわからなかったし。となると、次の『椿三十郎』も要注意って事かな・・・(汗)。

評価 ★★☆☆☆