『自虐の詩』

この映画はおそらく、好みが激しく分かれる映画だと思います。ベタな一発ギャグ的要素がふんだんに盛り込まれている為、そこを受け入れられるかどうかが鍵かなと。私は基本的にお笑いは大好きだけど、これはTVのお笑い番組ではなく、あくまで映画。巧みな構成や演出、絶妙な演技で笑わせてくれるならいざ知らず、意味もなくコケられたり、ちゃぶ台ひっくり返されたり、単にそのままコミックのギャグシーンだけを切取ったような演出は、ちょっといただけませんでした。「トリック」のようなキレのある巧みな演出は見る影もなく、「どうした堤監督!?」と首を傾げたくなるほど笑えない。原作は4コマ漫画らしいけど、それを2時間の映画にするのはやはり無理があったのではないかと。笑いやストーリーがぶつ切りで統一感がなく、ネタに走りすぎたせいで肝心のストーリーが脇へと追いやられてしまい、やや支離滅裂な展開に。結局、何が言いたかったのか、最後まで伝わってきませんでした。
と、作品としては個人的に残念な出来でしたが、キャストの演技は見ていて飽きませんでした。ま、中谷美紀は『嫌われ松子の一生』と似通った題材をあえて再び選んだからには、もう少し違った演技を見せてくれるだろうと期待していただけに、川尻松子そのまんまの演技にはちょっとガッカリでしたけど。でも、こういう波乱に富んだ女性を演じるのはさすがに上手く、安心して見ていられます。阿部寛も、あのタッパとギョロ目を最大限に生かしての演技で、とてもいい味を出していました。というか、今回のような無口な役だと滑舌の悪さも全然目立たないし、目での演技が際立ってピッタリだった気がします。あのルックスで遊園地というミスマッチが最高におちゃめでした。でも、何と言っても西田敏行。彼が登場した途端、全てをかっさらって行ってしまった感じ。どんな映画でも何をやっても、あの雰囲気と喋りと絶妙な間で全てを笑いに変えてしまう演技は、もはや神業ですね。
因みに今回は年配の女性率がとっても高い試写会だったけど、この映画のターゲットってどの世代なんだろう?映画のテイストが非常にその辺りの年齢層にウケがよろしいようで、まるで番組観覧に雇われたおばちゃん並のウケ方でした。おかげであまり笑えなかった自分は、完全にアウェイな状況(苦笑)。『サマータイムマシン・ブルース』みたいに笑いのツボが周囲とピタリとはまる映画は、見ていてとても気持ちいいんですけどね・・・今回はその逆でちょっと辛かったです。

評価 ★★☆☆☆