『幸せのちから』

ウィル・スミスと息子ジェイデンが織り成す親子愛が期待通りでとてもよかった。中でも、地下鉄のトイレをジュラ紀のジャングルに見立て、辛い一夜を少しでも楽しい思いに変えてやりたいという息子に対する親心は、切ないながらも微笑ましくて温かいエピソード。でも、感動のヒューマンドラマという点ではやや淡々と描きすぎた感もあり。盛り上がりに欠けてちょっとばかり拍子抜けでした。同様に、ホームレスから成功を掴み取った男のサクセスストーリーとしても、本人の執念と涙ぐましい努力は良く伝わって来るものの、肝心のサクセス部分が大味すぎてどうも物足りない。彼がどんな才能を発揮して、どうやって人の心を掴んでいったのか。その辺りをもっと見たかったです。
でも、この映画が実話だからこそ、徹底的にヒーロー像を排除したくてあえてそうしたのかなという気もする。ホームレスから一流証券会社社長への転身なんて、まさに映画にピッタリのおとぎ話。でも、決して虚構の世界じゃなく実話なんだよ、と。そう監督は言いたかったのかも。特に印象的だったのが、その日の寝床を確保する為に老女を押しのけ、大事なフィギアを落として泣き叫ぶ息子の手を無理やり引きずってバスに乗り込むウィルの姿。その瞬間の彼は決して優しい父親でもヒーローでもなかった。でも、生きることに精一杯な人間は、時に優しさや思いやりという感情を持つ余裕だってなくなる。息子に温かい寝床を与えてやりたい一心の鬼気迫る姿は、とてもリアルで胸が痛かったです。戦う相手をエイリアンから社会へと変えて熱演を見せたとウィルと、豊かな感受性を発揮したジェイデンくん。次なる共演作もありそうな予感です。
評価 ★★★☆☆