『となり町戦争』プレミア

決してつまらなかったわけではないけど、かと言って面白かったかと聞かれると返答に困ってしまう。何とも形容し難い不思議な映画と言えばいいのかな。思えば原作を読んだ時も同じ感想でした。確かに戦争の姿が目に見えないまま事業として淡々と行われる不気味さと、知らず知らずのうちに巻き込まれ加害者にも被害者にも成り得てしまう怖さは感じることが出きた。でもスリルがあったわけでもなければ、共感出きたわけでもなく、何かしらの終着点を見い出せないまま終わってしまい、何だかスッキリしない読後感で。これが映画になった時、一体どうなるんだろうかと思ったのですが。
一言で言ってしまうと、やはり映画化は難しい作品だったと思います。もちろんそれなりに色々と感じる映画ではあった。でも活字の世界では”目に見えない戦争”を個々の脳内で補完できるけど、映像の世界では描かずにその存在を感じさせる事が非常に難しい。何故って、視覚で成り立つ世界に”描かれない戦争”は成立しないから。だから、肝心の不気味さが今ひとつ伝わってこないんですよね。ひたすら淡々と続く主人公の平凡な日常描写。戦争映画には不釣合いな前半のコメディ部分は、その後の展開を引き立たせる為のあえての演出。でも、アクの強い脇役のデフォルメされた演技といい、やや的外れなコメディセンスは笑うに笑えずリアリティもない。一方で、ヒタヒタと忍び寄る戦争の影も見えて来ない。そんな曖昧な空気を一瞬にして引き締めたのが、瑛太の登場でした。疑問を感じつつも目に見えないが為に何となく流されてしまっている人たちの中において、唯一まともな感覚を持った人物。まるで静かな水面に小石が投げ込まれたかのように、一気に広がる不穏な空気。原田知世との迫力ある対峙シーンは、この映画で一番緊迫した瞬間でしたた。戦争という怖さが初めて肌で感じられた瞬間。ほんの短いシーンながらも空気を一変させ、強烈な存在感を示した瑛太は、やっぱりすごい役者だと思う。それだけに、ほんの顔見世程度の出演だったのが残念。もったいないよ。
クライマックスのシーン。江口洋介が二度と思い出したくないと言うほど強烈な匂いが立ち込める下水道のシーンは、リアルにその不快感が伝わってきました。原作と違い瑛太の出番が増えていたのは、ファンとして嬉しいには嬉しいけど、画面が暗すぎてその表情がしっかり拝めず。それでも、凛々しさと優しさを兼ね備えた青年智希の、原作ではわからなかった姉への思いがちょっと伝わって来たのでよしとしよう。*1もちろん、そんな呑気な事は言っていられない悲しい結末が待ち受けているのだけど。江口洋介原田知世、もとい北原と香西さんのその後は映画オリジナル。この辺りは賛否両論あるかもしれないけど、たった一つの救いという事で私的には良かったと思います。もちろん、それだけでは終わらない不穏な終わり方ではありましたが。
江口さんは先日の『アンフェアスペシャル』より断然こういう役柄の方が似合うと思う。原田知世も原作を何十回と読み込んだというだけあって、まさにイメージ通りの香西さんでした。でも、コメディ映画としても、戦争映画としても、恋愛映画としてもやや中途半端な印象は拭いきれず。舞台挨拶での話しによると、実は渡辺謙作監督自身、映画化の話をもらった時は戸惑ったとか。原作も2度しか読まずに現場に入ったと自ら言う辺りが何とも正直なお方で(笑)。まだ若く江口さんと並んでも引けを取らないルックスと*2フランクなトークはとても好感が持てましたが、原作への思い入れという点がやや足りなかったのかなと。江口さんはラフなデニム×コートの装いで、終始フラフラ落ち着きない様子。じっとしてるのが苦手な所といい、あまり人の話を聞いてない様で実はちゃんと聞いてる所といい、どこぞの後輩くんの姿と被って見えました(笑)。*3原田知世はまだ20代でも通るんじゃないかと言うほどの可愛らしさ。もうじき40?信じられません。
評価 ★★★☆☆

*1:最後の瑛太から江口さんへの握手は、頼もしい役者へと成長した後輩から大先輩へのエールにも見て取れ、思わず顔がほころんでしまった

*2:現に俳優業も継続中らしい

*3:舞台挨拶で2人が並ぶ姿を見たかった