本広克行『Fabrica【10.0.1】』

あの『踊る大走査線』シリーズを生み出した本広克行監督が、演劇と映画のコラボを目指して立ち上げた企画”play×movie”。その第1弾は2005年の夏に公開された『サマータイムマシン・ブルース*1知名度が低く一見地味な映画ながらも、緻密かつヒネリの効いた脚本と演出は類を見ない完成度の高さ。抜群に息の合った役者の演技も見事で、スピルバーグも真っ青の逸品。と、言えるのではないかと。その噛めば噛むほど深みが増す面白さの虜となり、当時何度も劇場に足を運んでしまったのも今となっては懐かしい思い出。そして今回、ついにその企画第2弾が始動したとのこと。『STMB』ファンとしてこれを見逃す手はなく、さっそく足を運んできました。
本広監督がこの度挑んだのは完全なる演劇の世界。キャパ200足らずの小さな小屋に、小劇場で有名な役者たちと、大ヒットメーカーには似つかわしくないフィールドをあえて選ぶ辺りがとても”らしい”なと。かしこまった格好で舞台挨拶に立つよりも*2、劇場の片隅で人知れずパイプ椅子にちょこんと座りながら携帯をいじってる姿の方が余程しっくりくる、面白い監督さんです(笑)。映像畑の監督がどんな舞台演出を見せてくれるのか。本広監督の事だから、絶対うならせてくれるはず。と根拠のない自信を持って着席。
や、見事にやられました。まさか泣かされるとは。これは全くの予想外。映画好きにはたまらないコアなネタをちりばめながら、テンポ良く進む前半。過去と未来の出来事が交錯しながら、まるで『STMB』のように徐々に全貌が明らかになっていく様。そして意外なラスト。切なくて、でも温かくて。思わずウルッと来た所へ追い討ちをかけたのは、あの「平均律クラヴィーア ハ長調HALFBYバージョン*3。舞台の感動なのか。それとも『STMB』への郷愁なのか。もう何に心を揺さぶられてるのか自分でもわからないけど、とにかく熱いものが胸にグッと来ました。
実を言うと、大好きなムロさんにヨロキカの永野さんというSF研な顔ぶれ以外、他の役者さんは全く知らなかったんですが。さすが監督が目を付けただけあって面白い役者さん達ばかり。特に一人で場内の笑いを持って行った野口かおるさん。一気にファンになりました。世間的には知名度がないけど、地道に頑張ってるいい役者さん達は沢山いる。そんな人たちにもしっかり目を向けている本広監督。改めてこの監督のこういうスタンスが私は好きなんだと実感しました。

*1:通称『STMB

*2:交渉人真下正義』や『UDON』の舞台挨拶

*3:STMB』のサントラ