『あの空をおぼえてる』

ある日最突然最愛の娘を亡くした家族の、苦しみと再生を描いた作品。本来ならば涙の感動物語のはずなのに、残念ながら私この作品に入り込めませんでした。それは、父親の孤独と葛藤があまりにも独りよがりに見えてしまったから。自分ひとりだけが辛いんだと言わんばかりに現実から逃避し、目の前にいる息子や妻から目をそむけて殻に閉じこもる姿が、私にはどうしても共感できなくて。大切な家族を亡くした痛みは妻にとっても息子にとっても同じこと。最愛の娘を亡くした辛さはすごく良くわかるけど、そんな時にこそ、家族の心を暖かく包み込み、先頭にたって支えていくべく存在、それが父親のあるべき姿だと思うんです。それなのに、いつまでも「悲劇の父親」に酔いしれ、家族に当り散らして、ウジウジしてて。妊娠中の妻や息子の苦しみや悲しみには、これっぽっちも目を向けようとしないんだもの。両親から空気のように扱われ、妹の死に責任を感じながらも、必至で孤独と寂しさを心の奥に押し込んでけなげに笑顔を振りまく息子がただただかわいそうで、竹野内豊扮する父親の不甲斐なさにひたすら腹が立ちました。あの息子役の子がまたけなげで純粋な演技をするもんだから、余計に辛かったです。
映画はお久しぶりの竹野内豊。元々口跡が重たい人なので、ウジウジした父親役がますます煮え切らなく見えて、作品の空気自体までもが重々しく感じるばかり。7月クールのTBSドラマ「Tomorrow 」の彼の方が断然いいです。こちらは、無口ながらも時折覗かせる笑顔が素敵で、正義感の強い陰のあるヒーローを嫌味なく演じていて断然格好よく見えますもん。ということで、久々の映画主演だったのにいまひとつ魅力が発揮できていない残念な作品でした。

評価 ★★☆☆☆